浦和家庭裁判所 平成12年(家)964号 審判 2000年10月20日
申立人 X
相手方 Y
事件本人 A
主文
相手方は、申立人に対し、事件本人の福祉に反しない限り、
1 申立人が、事件本人と、直接的な面接交渉又は手紙、電話等の通信手段を介する等の間接的な面接交渉をすることを妨げてはならない。
2 事件本人と申立人が面接交渉をするについて必要な援助をしなければならない。
3 事件本人が成人に達するまでの間、事件本人の意思に反しない限り、事件本人の学校の各学期の終了ごとに、事件本人の近況を示す写真を送付し、事件本人の成育状況や学校での成績を知らせるなどして、事件本人の成育状況を知らせなければならない。
理由
一 申立の趣旨及び実情
申立人Xは、相手方Yとの間の長女である事件本人A(以下、Aと言う。)との面接交渉を求めた。
二 当裁判所の判断
本件記録、平成10年(家イ)第×××号、同第××○号事件記録、調査官○○○○、同○○○○の調査報告書、申立人及びAの審問の結果に基づく当裁判所の認定、判断は次のとおりである。
1 本件紛争の経緯
申立人と相手方は、ドイツ民主共和国において婚姻し、間もなく、同国のベルリン市において長女Aが誕生した。ところが、申立人と相手方は不仲となって、相手方がAを連れて日本に帰国している間、申立人と相手方は、ドイツ共和国における裁判による離婚判決を受け、右判決においてAの親権者は申立人と定められた。また、申立人は、相手方がAを日本に連れ帰っていることを捉えて、児童誘拐罪で相手方をドイツの当局に告訴した。右判決当時Aと共に日本にいた相手方は、浦和地方裁判所に離婚訴訟を提起し、右訴訟は浦和地方裁判所平成8年(タ)第×××号事件として係属し、これに対し、申立人も直ちに反訴を提起し、右反訴は平成9年(タ)第××号事件として係属した。右の本訴・反訴各事件が平成10年2月9日調停に付されて当裁判所に平成10年(家イ)第×××号、同第××○号各事件として係属した。
ところで、申立人は、長い間Aに会っていなかったのでAの状況を心配し、相手方に対する不信感も募らせていたため、担当調査官による調整の結果、平成10年11月2日、申立人が来日して東京家庭裁判所の児童室において申立人とAとの面接が実施された。そして、その後開かれた調停期日において、申立人はAとのさらに充実した継続的な面接を求めた。ところが、相手方は、申立人がドイツにおいて相手方を誘拐の罪で告訴していることから、告訴を取り下げることを今後の面接の条件として要求したため双方対立し、申立人と相手方との離婚、Aの親権の帰属については24条審判によることとし、面接交渉について本件審判申立がなされたものである。
2 当裁判所の判断
先ず、当裁判所は、当事者双方の離婚及びAの親権の帰趨については、別途24条審判において示したとおり、申立人と相手方を離婚し、Aの親権者は相手方と定めた。そこで、Aと申立人との面接交渉について検討する。
申立人とAの面接交渉は、前記のとおり、平成10年11月2日に東京家庭裁判所において行われ、さらに引き続いて裁判所の関与しない当事者同士の自主的な面接も行われたが、面接は極めて良好に推移したと認められ、Aも申立人に対する拒否的な感情は持っておらず、むしろ、申立人との面接に加えて、手紙や電話のやり取りによる広い交流も求めており、そのような直接的、間接的な面接の継続によって申立人とAが良好な母子関係を築くことができるであろうし、そのことがAの福祉にとっても必要なことであることが明らかとなった。ところで、申立人は、平成10年11月2日の面接以後、Aに数回手紙を出し、プレゼントも贈ったのに、Aからの返事は1回だけであること、前記面接の際に多数のテレフォンカードをAに渡し、Aも電話を掛けることを約束したのに電話が掛かってこないこと等から、相手方がAと申立人との接触を妨害しているのではないかとの疑念を抱いている。しかし、相手方は、Aがその自由意思で申立人と面接したり手紙のやり取りをしたり、電話したりすることを禁止する気持ちはなく、そのような妨害をしている事実も認められない。むしろ、相手方は、申立人との面接がAのためにも必要であることを十分認識していると認められるのであって、Aの希望があれば、Aと申立人との交流を援助をする意思もあると認められる。申立人の疑念は、面接交渉に対する申立人とAとの熱心さの差に基づくものであり、思春期の年齢に達し、その生活の領域を広げているAが申立人と同じ熱心さで申立人との面接に取り組むのを求めるのは無理があり、申立人としては、Aの生活や心理に対応しながら、同女の精神的な負担にならないように、少しずつ交流を深める姿勢を持つべきであると解される。また、電話の点については、Aは、何度か申立人に電話を掛けたが繋がらなかったという事実がある。
そこで、具体的な面接の方法であるが、申立人はドイツに在住であり、具体的な面接の回数や方法を定めるのは困難であること、Aの年齢に照らし、また、同女が自立心が強く、自らの意見を持ち、自らの決断に基づいて行動するに充分な能力のある少女であることから、もはや、相手方がその意思でAと申立人を面接させたりすることのできる時期は過ぎていると認められるので、先ず、相手方に求められるのは、Aがその意思に基づいて申立人と交流することを妨げないことであり、次に、Aと申立人との交流が図れるように側面から援助することである。そして、本件に現れた一切の事情を考慮し、当裁判所は、申立人とAとの面接についての指針を主文において示すに止めることとした。また、当裁判所は、双方の紛争が決着を見たならば、双方は、Aの幸福のためには協力し合うという信頼関係を回復させるべきであって、そのためには、なによりも、相手方は申立人に対し、Aの所在地、すなわちAと相手方の住所を明らかにすべきであると考える。いくら親権者ではないとはいえ、片方の親が子の所在を知らされないと言うのは尋常なことではない。相手方が、住所を明らかにすることを拒むのは、以前申立人がAの通っている幼稚園に突然訪ねて来たことから、申立人がAをドイツに連れ帰るのではないかとの不安を抱いているからである。当裁判所は、Aの年齢に照らせば、現在はそのような不安は杞憂ではないかとは思うが、相手方の不安をまったく根拠のないものとして退けるだけの資料はないので、この点は主文においては命じないこととした。なお、前記のとおり、Aが申立人に電話で連絡を取ろうとしたが繋がらなかった事実が認められるが、当面は、Aあるいは相手方は、申立人代理人を通じて申立人と連絡を取るしかないであろうし、できるだけ早急に連絡を付けて、相手方の不安と疑念を払拭するのが相当である。以上のとおりであるから、本件については、主文のとおり審判するが、申立人と相手方が、できるだけ早くその信頼関係を回復し、Aが不安を抱くことなく、自らの意思で日本とドイツとにまたがった国際的な成長を果たせる環境を整えることを希望する。
よって、主文のとおり審判する。
(家事審判官 坂梨喬)